まだ肌寒い季節に。
少女は波打ち際の浜辺で、しきりに何か文字を書いている。
しかし無情に、波がそれを押し流してしまう。
彼女はまた同じ場所に、同じ文字を書きはじめた。
しかしすぐに押し流されてゆく。
消されるのはわかっている。
しかしなぜか少女は、そこを移動したりはしない。
ずっとずっと、同じ場所に同じ文字を、何度も何度も書いた。
どこかへ届けようとするもの、どこにも届かないものを。
涙が落ちても、ちゃんと波が押し流してくれるから。
誰も気づかない。自分さえも気づかない。
空は言う。
『愛という字をえがいていいほど お前は強くない。
けれど愛という字を諦めて死ぬほど お前は弱くもない。』
日が暮れ、やがて黒くなった海の向こうの水平線に
無数の蛍の光が浮かび上がっていた。
解説
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- 作品名
- 干潮
- 登録日時
- 2006/04/05 (水) 00:00
- 分類
- インストゥルメンタル::2006年度